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最高裁判所第二小法廷 昭和60年(オ)1365号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤了、同岡本好司、同鈴木諭の上告理由第一点について

所論の点に関する原審の認定判断は正当であり、その過程に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないか又は独自の見解に基づいて、その違法をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

本件保険契約に適用される自家用自動車保険普通保険約款(昭和五三年一一月一日改訂前のもの。)六章一二条二号は、保険契約者又は被保険者が事故の発生を知つたときには事故発生の日時、場所、事故の状況、損害又は傷害の程度、被害者の住所、氏名等を遅滞なく書面で保険者に対して通知すべきである旨規定し(以下この通知を「事故通知」という。)、また、同一四条は、対人事故の場合の特則として、保険者が保険契約者又は被保険者から一二条二号による事故通知を受けることなく事故発生の日から六〇日を経過した場合には、保険契約者又は被保険者が過失なくして事故の発生を知らなかつたとき又はやむを得ない事由により右の期間内に事故通知できなかつたときを除いて、保険者は事故に係る損害をてん補しない旨規定しているのであるが、この規定をもつて、対人事故の場合に右の期間内に事故通知がされなかつたときには、右例外に当たらない限り、常に保険者が損害のてん補責任を免れうることを定めたものと解するのは相当でなく、保険者が損害のてん補責任を免れうる範囲の点についても、また、事故通知義務が懈怠されたことにより生じる法律効果の点についても、右各規定が保険契約者及び被保険者に対して事故通知義務を課している目的及び右義務の法的性質からくる制限が自ら存するものというべきであるところ、右各規定が、保険契約者又は被保険者に対して事故通知義務を課している直接の目的は、保険者が、早期に保険事故を知ることによつて損害の発生を最小限度にとどめるために必要な指示を保険契約者又は被保険者等に与える等の善後措置を速やかに講じることができるようにするとともに、早期に事故状況・原因の調査、損害の費目・額の調査等を行うことにより損害のてん補責任の有無及び適正なてん補額を決定することができるようにすることにあり、また、右事故通知義務は保険契約上の債務と解すべきであるから、保険契約者又は被保険者が保険金を詐取し又は保険者の事故発生の事情の調査、損害てん補責任の有無の調査若しくはてん補額の確定を妨げる目的等保険契約における信義誠実の原則上許されない目的のもとに事故通知をしなかつた場合においては保険者は損害のてん補責任を免れうるものというべきであるが、そうでない場合においては、保険者が前記の期間内に事故通知を受けなかつたことにより損害のてん補責任を免れるのは、事故通知を受けなかつたことにより損害を被つたときにおいて、これにより取得する損害賠償請求権の限度においてであるというべきであり、前記一四条もかかる趣旨を定めた規定にとどまるものと解するのが相当である。

本件において、原審が適法に確定した事実関係によると、本件事故は被害者である訴外亡三浦章の即死に近い事故であつて、被保険者等において損害の拡大をくいとめる余地は殆どないうえ、右事故に基づく損害の額は被上告人らと訴外有限会社吉田土木との間の別件訴訟の確定判決により適正に算定されたというのであり、また、上告人は、原審において、本件保険契約の保険契約者である同訴外会社及び被保険者が前示のような目的のもとに本件事故につき通知しなかつたものであることについても、また、本件事故についての通知義務が懈怠されたことによつて損害を被つたことについても主張・立証していなかつたところであるから、上告人は、右事故通知義務が懈怠されたことを理由として、本件事故による損害についてのてん補責任を免れないものというべきであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。論旨は、右と異なる見解に基づいて原判決を論難するものであつて、採用することができない。

同第三点について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はなく、右事実関係のもとにおいて、訴外吉田政雄が訴外有限会社吉田土木の業務執行機関に当たらないとした原審の判断は、正当として是認することができる。所論は、違憲をいう部分を含め、いずれも訴外吉田政雄が同訴外会社の業務執行機関に当たることを前提とするものであるから、その前提を欠くものというべきである。論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九三条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 牧 圭次 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一 裁判官 林 藤之輔)

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